eatas株式会社
代表取締役 手嶋 英津子 氏
本記事では、株式会社Tobe-Ruが開催した歯科医院向けセミナー「管理栄養士の採用×収益アップ」にて、eatas株式会社 代表取締役・手嶋英津子氏にご登壇いただいた内容をもとに、歯科医院における管理栄養士の採用・活躍設計・栄養指導・収益化について、一部抜粋・編集してご紹介します。
| 課題 | 歯科業界の採用難が続く中、管理栄養士を採用する医院も増えている。一方で、実際には受付や歯科助手業務が中心となり、管理栄養士としての専門性を十分に活かせていない医院も少なくない。 |
| 施策 | 管理栄養士を採用するだけでなく、「誰に・何を・どのように提供するか」というサービス設計と活躍設計を行う。院内完結型・オンラインを組み合わせたハイブリッド型・外部連携型など、医院に合った栄養指導の仕組みを構築する。 |
| 効果 | 患者さまへの継続的な健康支援、管理栄養士の働きがい向上、医院の差別化、スタッフ教育・採用力向上、さらに自費診療による新たな収益づくりにつながる可能性が生まれる。 |

栄養×テクノロジーで、一人ひとりに合った栄養支援を
eatas株式会社は、福岡県福岡市中央区に本社を置く、栄養支援を中心としたサービスを展開する会社です。
2021年3月29日に設立され、管理栄養士である手嶋英津子氏が代表取締役を務めています。
主な事業は、栄養カウンセリングシステムの開発、法人・個人向けの栄養カウンセリング、食と健康に関するコンサルティングです。
管理栄養士による専門的な栄養支援とテクノロジーを組み合わせ、一人ひとりの身体状態や生活スタイルに合わせたサポートを提供しています。
掲げているのは、「楽しく美味しく食べることで健康になることを当たり前にする」という考え方。
栄養指導サービスやシステム開発を通じて、日常生活の中で無理なく続けられる健康支援を目指しています。
歯科医院の採用難を、新しい職種の活用で乗り越える
歯科医院の採用市場は、年々厳しさを増しています。
歯科医師や歯科衛生士だけではありません。
歯科助手や受付などの人材についても、一般企業を含めた幅広い選択肢の中から勤務先を選ぶ人が増えており、歯科医院側は他業界とも人材を取り合う状況になっています。
採用できない状況が続けば、「応募があったから採用する」という妥協採用も起こりやすくなります。
しかし、本来の採用基準に満たない状態で採用すれば、新人教育に時間がかかり、教育担当者が疲弊し、既存スタッフの離職につながることもあります。
そこで重要になるのが、これまでの歯科衛生士・歯科助手・受付といった職種だけにこだわらず、医院で活躍できる人材の選択肢を広げることです。
その一つとして注目されているのが、管理栄養士です。
「食べる・噛む・飲み込む」――歯科と栄養は切り離せない
歯科と栄養は、一見すると別の領域に見えるかもしれません。
しかし、患者さまの生活を考えてみると、
「食べる」
「噛む」
「飲み込む」
という一連の行動すべてに、口腔と栄養が関わっています。
小児であれば、食育や間食指導。
矯正治療中であれば、噛みにくい時期の食事や栄養バランス。
成人であれば、肥満・糖尿病などの生活習慣病や歯周病。
高齢者であれば、オーラルフレイルや口腔機能低下、低栄養、摂食嚥下。
さらに、予防歯科や訪問歯科など、管理栄養士が関われる場面は数多く存在します。
歯科医院は定期的に患者さまと接点を持てる場所だからこそ、口腔だけではなく、食生活や生活習慣まで継続的に支援できる可能性があります。
管理栄養士を採用しただけでは、専門性を活かせない
一方で、管理栄養士を採用すれば自然と活躍してもらえるわけではありません。
eatas株式会社の手嶋氏は、歯科医院から「管理栄養士を採用したものの、専門性を活かせていない」という相談を受けることがあると話します。
管理栄養士本人からも、
「思っていたような業務ができない」
「このまま働き続けていいのか迷っている」
といった相談があるといいます。
その背景には、受付や歯科助手などの通常業務が忙しく、栄養に関わる専門業務の時間を確保できていないことがあります。
さらに、
何をサービスにするのか。
どんな患者さまを対象にするのか。
いくらで提供するのか。
誰が患者さまに案内するのか。
こうした仕組みが決まっていないことも、管理栄養士の専門性を活かせない大きな理由です。
つまり問題は、単純な「採用」ではありません。
必要なのは、採用した後にどう活躍してもらうかという「活躍設計」です。
栄養指導を成功させるカギは「サービス設計」と「導線設計」
栄養指導を医院に取り入れる際には、まずサービスそのものを設計する必要があります。
対象となる患者さまは誰なのか。
どんな悩みを解決するのか。
単発で行うのか、一定期間継続するのか。
料金はいくらにするのか。
対面なのか、オンラインなのか、チャットも組み合わせるのか。
さらに重要なのが、「誰が患者さまに栄養指導を紹介するのか」という点です。
せっかく良いサービスを作っても、患者さまにつなぐ人やタイミングが決まっていなければ、サービスは利用されません。
予防歯科の流れの中に食生活のチェックを入れる。
体組成計で体重の変化が確認されたタイミングで栄養相談につなぐ。
こうした既存の診療との接点を設計しておくことで、患者さまにとっても自然な形で栄養支援へつなげやすくなります。
最初から全部やらない。「一つのテーマ」から小さく始める
管理栄養士が活躍できる領域は非常に広いため、最初からすべてに取り組もうとすると、かえって運用が難しくなります。
そこで手嶋氏が勧めるのが、まず対象を一つに絞ることです。
「まずは予防歯科から」
「まずは矯正患者さまから」
「まずは生活習慣に課題がある患者さまから」
というように、医院の患者層や強みを踏まえて一つのテーマからスタートします。
そこでサービス内容や患者導線を整え、小さな成功事例をつくる。
うまく回るようになったら、少しずつ別の患者層へ広げていく。
最初から完成形を目指すのではなく、小さく始めて改善することが重要です。
管理栄養士の活用方法は「3つのモデル」から考える
栄養指導の運用方法は、大きく3つに分けられます。
一つ目は、院内にいる管理栄養士が対面を中心に対応する「院内完結型」。
二つ目は、来院時には院内で対応し、来院と来院の間はオンラインやチャットで支援する「ハイブリッド型」。
三つ目は、院内に管理栄養士がいない場合や、専門業務に十分な時間を割けない場合に、外部の管理栄養士と連携する「外部連携型」です。
特にこれから管理栄養士の採用を検討する医院であれば、いきなり採用するのではなく、まず外部サービスを活用してニーズを確認する方法もあります。
実際に患者さまからどの程度ニーズがあるのか。
どのようなサービスなら継続して利用してもらえるのか。
小さく検証したうえで、管理栄養士の採用や内製化を判断できます。
オンライン栄養指導で「来院と来院の間」を支援する
eatas株式会社では、専用のアプリやシステムを活用した栄養指導を提供しています。
患者さまが日々の食事写真や体重などを記録し、管理栄養士がその情報を確認。
チャットやオンライン面談などを通じて、継続的な支援を行います。
通常の栄養指導では、「昨日は何を食べましたか?」「最近の食生活はどうですか?」と、患者さまの記憶を頼りに確認する時間が必要です。
しかし、食事写真が残っていれば、実際の食事を見ながら話を進められます。
そのため、限られた面談時間を「何を食べたか」の確認だけに使うのではなく、「どこを改善するのか」「どうすれば生活の中で実践できるのか」といった、より具体的な支援に使えるようになります。
そして、栄養指導で何より大切なのが「継続」です。
一度良い話を聞くだけでは、生活習慣はなかなか変わりません。
行動を変え、それを続け、その結果として身体の変化につなげる。
オンラインやチャットを活用することで、歯科医院への来院時だけではなく、次回来院までの日常生活も支援できるようになります。
約60施設に導入。500名以上の管理栄養士コミュニティも運営
セミナー時点で、eatasの栄養指導サービスやツールは、クリニックだけでなく、整骨院やサロンなど約60施設に導入されていると紹介されました。
また、500名以上の管理栄養士が所属するコミュニティを運営しています。
外部委託型のオンライン栄養指導では、その中から研修などを経た管理栄養士が支援を担当します。
歯科だけでなく、内科では生活習慣病、整形外科では肥満改善、呼吸器内科では睡眠時無呼吸症候群、美容領域では食生活と肌の健康など、さまざまな領域で栄養指導が活用されています。
それだけ「食」は、幅広い医療分野と関わるテーマだといえます。
歯科医院では「院内+外部」という運用も
セミナーでは、実際に歯科医院で進めている導入事例についても紹介されました。
その医院にはすでに管理栄養士・栄養士が在籍していましたが、専門性をさらに発揮できる仕組みを作りたいという課題がありました。
そこで、矯正分野は外部のオンライン栄養指導、予防分野は院内の管理栄養士というように、対象患者によって担当を分ける形でサービスを設計。
体組成計の活用も検討しながら、院内スタッフとeatasが連携して仕組みづくりを進めています。
こうした新しいサービスは、導入を決めた翌日から始められるものではありません。
対象患者、料金、患者導線、スタッフの役割などを整理する必要があります。
セミナーでは、導入までおおむね2〜3か月程度かけて準備するケースが紹介されました。
栄養指導を「新しい収益の柱」にする
管理栄養士の活用を考えるうえで、忘れてはいけないのが収益性です。
「やりがいのある仕事をつくる」だけでは、医院経営として長く続けることはできません。
手嶋氏は、収益化のポイントとして、患者さまの満足度を高め、継続して利用してもらえる仕組みを作ることを挙げています。
栄養指導を自費診療として提供することで、新たな収益につなげることも可能です。
さらに、「栄養まで相談できる歯科医院」という特徴は、他院との差別化にもつながります。
スタッフが栄養について学ぶ機会が増えれば院内教育につながり、管理栄養士が専門性を発揮できる医院として採用面での強みにもなります。
患者さまの満足度を高めること。継続的に利用してもらえるサービスにすること。その結果として、医院の価値と収益の両方を高めていく。
管理栄養士の活用を、単なる採用施策ではなく医院経営の一つの柱として考えることが重要です。
管理栄養士を孤立させない。育成にも外部の力を
管理栄養士を採用した後には、育成という課題もあります。
歯科医院では、管理栄養士が1人だけというケースも多く、同じ職種の先輩から指導を受けられないことがあります。
そのため専門職としての育成については、すべてを医院内だけで完結させる必要はありません。
研修や学会、専門職のコミュニティなど、外部の学びを活用し、他の管理栄養士との横のつながりを作ることも一つの方法です。
手嶋氏も、専門職として院内だけで育成することが難しい場合には、外部を頼ることが有効だと話しています。
また評価制度については、「管理栄養士だから特別な制度を作る」というより、キャリアの幅と専門性の両方を見る考え方が紹介されました。
受付や歯科助手、カウンセリング、SNSなど対応できる仕事の幅を広げながら、栄養指導件数や継続患者数、MFTなどの専門的な実績も評価する。
何ができるようになれば次のステップに進めるのかを明確にし、キャリアパスとして示すことが重要です。
管理栄養士採用のゴールは「入社」ではない
管理栄養士の採用は、人手不足を埋めるだけのものではありません。
患者さまにとっては、歯や口腔だけでなく、食生活や全身の健康まで相談できる場所になる。
管理栄養士にとっては、自分の資格や専門性を活かしながら患者さまと関われる。
医院にとっては、予防や継続支援の充実、他院との差別化、採用力の向上、そして新たな収益づくりにつながる。
そのために重要なのは、
「管理栄養士を採用すること」ではなく、「管理栄養士が活躍できる仕組みをつくること」です。
まずは一つのテーマから、小さく始める。
サービス内容を決める。
患者さまにつなぐ導線を作る。
必要に応じてオンラインや外部の力も活用する。
そして結果を確認しながら、少しずつ医院の中に定着させていく。
「誰を採用するか」から一歩進み、「その人の専門性を使って、医院としてどんな価値を生み出すのか」を考える。
管理栄養士という職種には、これからの歯科医院の診療・組織・経営を広げる大きな可能性があります。
まとめ
歯科医院の採用市場が厳しくなる中、従来の職種だけにこだわらず、新しい人材の活かし方を考えることが重要になっています。
その選択肢の一つが、管理栄養士です。
歯科と栄養は、「食べる・噛む・飲み込む」という視点で非常に高い親和性があります。
小児の食育から、予防、矯正、生活習慣病、高齢者の低栄養、訪問歯科まで、管理栄養士が専門性を発揮できる場面は数多くあります。
一方で、管理栄養士を採用しただけでは、その専門性を十分に活かすことはできません。
誰を対象にするのか。
何をサービスとして提供するのか。
どのように患者さまへ案内するのか。
どのように継続支援するのか。
こうしたサービス設計・役割設計・導線設計が重要になります。
そして、最初から大きく始める必要はありません。
一つのテーマから小さく始め、ニーズを確認し、仕組みを改善しながら広げていく。
院内だけで難しければ、オンラインや外部の管理栄養士を活用することもできます。
患者さまにとって価値があり、管理栄養士が専門性を発揮でき、医院にとっても継続的な収益につながる。
管理栄養士の採用を「人手不足対策」で終わらせず、医院の新しい価値をつくる仕組みへ。
採用後の活躍まで設計することが、これからの歯科医院に求められる人材活用の一つの形になっていくのではないでしょうか。
