「また理学療法士が辞めた。先月ようやく採用できたばかりなのに……。次の採用活動を考えると、もう頭が痛い」
こう打ち明ける整形外科院長は、決して少数派ではありません。厚生労働省「令和5年雇用動向調査」によれば、医療・福祉業界の離職率は14.4%と全産業平均(15.4%)に迫る水準です。なかでも理学療法士・作業療法士などのリハビリ職は、若手を中心に3年以内離職率が30%前後に達するケースも報告されています。
しかし、辞めた理由を「給与が低いから」と片付けてしまうと、根本的な問題は解決しません。採用コストを重ねても、また同じ理由でスタッフが去っていきます。本記事では、クリニックスタッフが辞める本当の理由と、それを生み出している「組織の構造問題」を整理します。
「給与が原因」は誤診——退職理由の3層構造を理解する
退職したスタッフに理由を聞くと、「給与」「家庭の事情」「体調不良」といった答えが返ってくることがほとんどです。しかし、これは退職理由の「表面」に過ぎません。人事心理学では、退職意向は3層の動機が重なって生まれると考えられています。
表層・中層・深層:退職理由の3層モデル
| 層 | 退職理由として語られる内容 | 実態 |
|---|---|---|
| 表層(言語化される理由) | 給与・通勤・家庭の事情 | 面談で話しやすい「言い訳」として機能しやすい |
| 中層(半ば意識されている理由) | 人間関係・職場の雰囲気・業務量 | 退職を「考え始めた」直接の引き金になりやすい |
| 深層(本人も気づきにくい理由) | 成長実感の欠如・評価への不満・将来像が見えない | 離職意向を「定着」させる根本的な要因 |
エン・ジャパンが2023年に実施した「退職理由に関する実態調査」では、退職者の約58%が「本当の退職理由は在職中に伝えなかった」と回答しています。院長に伝えられた理由と、本音の乖離は大きいのです。
退職面談で「本音」が出ない理由
退職面談でスタッフが本音を話さない背景には、2つの心理的障壁があります。
1つ目は「傷つけたくない」という配慮です。「院長の評価が不公平だと感じた」という本音は、相手への批判になります。立場上、それを口にしにくいのは自然なことです。
2つ目は「言っても変わらない」という諦観です。過去に意見を伝えたが組織に反映されなかった経験があると、退職時に本音を話すメリットを感じられなくなります。
「給与を上げたのに辞めた」という院長の声は、深層の退職理由に手を打てていないサインです。表層だけを処置しても、深層にある「評価への不満」「成長停滞感」は解消されません。
整形外科クリニック特有の退職パターン:PT(理学療法士)職種の課題
整形外科クリニックで特に深刻なのが、PT(理学療法士)の離職です。リハビリ部門はクリニックの収益柱である一方、PT1人あたりの採用・育成コストは50〜80万円(DoctorHR推計)に上ると言われています。PT職の退職には、他職種とは異なる特有のパターンがあります。
技術職特有の「成長停滞感」が離職を加速する
理学療法士はキャリアを通じて技術・専門性を高めることに強い動機を持つ職種です。臨床実習から国家試験に至るまで、「学び続ける」ことを軸に成長してきた人材が多いため、成長実感が得られない環境では急速に離職意向が高まります。
DoctorHRが整形外科クリニックのPT離職者にインタビューした調査(2024年・n=84)では、「今の職場では技術的に成長できないと感じた」という回答が離職理由のトップ(61.9%)でした。「給与への不満」(48.8%)を上回っています。
学会発表・資格取得が評価に反映されない問題
理学療法士の多くは、認定理学療法士・専門理学療法士などの資格取得や、学会発表・研究活動に積極的に取り組んでいます。しかし、多くのクリニックではこうした「業務外の努力」が給与や職位に反映されていません。
日本理学療法士協会の調査(2023年)によると、クリニック勤務のPTの約67%が「学会発表や資格取得が評価制度に組み込まれていない」と回答しています。「努力しても評価が変わらない」という閉塞感が、早期離職の一因となっています。
「先輩PTが辞めたら私も」という連鎖退職リスク
PT職には同期・先輩後輩のコミュニティ意識が強い傾向があります。信頼していた先輩PTが退職すると、「あの人が辞めるなら、この職場に将来はない」という心理が連鎖し、若手の離職を誘発します。
実際、あるクリニックでは主任PTが退職した翌月に新卒2年目のPTが2名同時に退職するケースが発生しました。リハビリ部門の人材は「チーム」として動いているため、1人の退職がドミノ倒しになるリスクを院長は常に意識しておく必要があります。
- 直近6ヶ月で「学会参加を申請してきたPT」の数が減った
- 朝礼・カンファレンスでPTの発言量が以前より少なくなった
- 残業や自主練習を避けるような変化が見られる
- 有給取得頻度が急増したスタッフがいる
- 面談希望を自ら申し出るPTが1年以上いない
- スタッフ間で院長の評価への愚痴が聞こえてきた
退職連鎖が起きるクリニックの組織的特徴
単発の退職で終わるクリニックと、連鎖退職が繰り返されるクリニックには、明確な組織的差異があります。連鎖退職が起きやすいクリニックには、共通して3つの構造問題が見られます。
構造問題①:評価基準の不透明性
「なぜ自分は昇給しないのか」「どうすれば評価されるのか」が分からない状態は、スタッフに強い不公平感を生みます。院長が「あの子は頑張っている」と感じていても、その判断基準がスタッフに共有されていなければ、評価制度は機能していないのと同じです。
特に問題なのは、「院長の印象評価」が唯一の評価軸になっているケースです。院長との接触頻度が高いスタッフが自然と高評価になり、黙々と質の高い仕事をしているスタッフが見過ごされる——この状態が続くと、優秀な人材ほど早く離職します。
構造問題②:フィードバックループの欠如
「目標を伝えた」「評価した」だけでは不十分です。評価結果がスタッフにどう伝わり、次の行動にどう活かされているか——このフィードバックのループが回っていないクリニックでは、スタッフは「評価されている実感」を持てません。
目標設定→業務遂行→評価→フィードバック→新たな目標設定、というサイクルのこと。このサイクルが3〜6ヶ月で回ることが理想的です。年1回の面談のみでは、スタッフの行動変容につながりにくく、評価への信頼も生まれません。
構造問題③:キャリアビジョンの共有不足
スタッフは「このクリニックで5年後、自分はどうなっているのか」というビジョンを求めています。これが見えないクリニックでは、少し条件のいい求人が目に入っただけで転職活動を始めてしまいます。
逆に、「3年後に主任PTになってリハビリ部門を任せたい」という具体的なキャリアパスを示されたスタッフは、転職市場の誘惑に対して強い免疫を持つようになります。キャリアビジョンの共有は、最もコストのかからない離職防止策の一つです。
評価制度の整備が退職防止の最優先手段である理由
「評価制度を整えれば、離職は減るのか?」——この問いに対して、DoctorHRは「はい、それが最も効果的な手段です」と断言します。その根拠を、心理的メカニズムと実践的な観点から解説します。
評価制度が「心理的安全性」を高めるメカニズム
組織行動学の分野では、心理的安全性(Psychological Safety)がパフォーマンスと定着率の両方に影響することが示されています(Edmondson, 1999)。心理的安全性とは「失敗や意見表明を恐れず行動できる環境」のことですが、これを支える重要な柱の一つが「評価の透明性」です。
「頑張ったら正当に評価される」という確信があるからこそ、スタッフは積極的に業務に取り組み、改善提案を出し、クリニックに留まる動機を持てます。逆に評価が不透明だと、「どうせ頑張っても変わらない」という無力感が職場全体に蔓延します。
小規模クリニックでも実現できる評価制度の形
「うちのクリニックは規模が小さいから、評価制度は大病院の話だ」と考える院長も多いです。しかし、評価制度の要件は「仕組みの複雑さ」ではなく「透明性・継続性・連動性」の3点です。
- 評価項目(技術・態度・業績など)が明文化されている
- 評価者が院長1人ではなく複数(360度評価)
- 年2回以上の評価サイクルがある
- 評価結果が給与・賞与・職位に連動している
- 評価後に個別フィードバック面談を実施している
- キャリアパス(職位ロードマップ)が書面で存在する
これらを一度に整備する必要はありません。DoctorHRでは、クリニックの現状に合わせて段階的に導入できるプログラムを提供しています。まず評価項目の明文化から始め、半年で360度評価を導入し、1年後に給与連動を実現する——このような段階的な進め方が、現場の混乱を最小化しながら評価制度を根付かせる鍵です。
DoctorHRを導入した整形外科クリニック(n=47)の調査では、導入12ヶ月後の離職率が平均32%低下。スタッフ満足度調査における「評価への納得感」スコアは導入前比で1.8倍に向上しました(DoctorHR調査、2024年)。
DoctorHRで、スタッフが育ち続けるクリニックを作る
クリニックスタッフの退職は、「給与が低いから」でも「運が悪かっただけ」でもありません。評価の不透明性・フィードバックの欠如・キャリアビジョンの共有不足という、組織の構造的な問題から生まれています。
これらの問題に対処するためには、感覚に頼った人事管理ではなく、仕組みとしての評価制度が必要です。DoctorHRは、整形外科クリニックに特化した人事評価システムを提供しています。
① 整形外科・リハビリ職に特化した評価テンプレート
PT・OT・ST・看護師・受付など職種別の評価項目をあらかじめ設計。ゼロから作る手間がかかりません。
② 360度評価で「院長の主観」に頼らない仕組み
多面評価により、スタッフが「公平に見てもらえている」という実感を持てる環境を作ります。
③ 専任コンサルタントによる継続サポート
導入後も定期的なサポートで制度が「形骸化」しないよう支援します。
評価制度の整備は、スタッフへの投資であり、クリニック経営の安定化への投資です。「採用コストをかけ続ける」経営から、「育てて定着させる」経営へ。DoctorHRとともに、その転換を実現しましょう。
